他人の顔
安部公房, 1964年
352 ページ
新潮社
2016年 読了
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🔽 本の紹介と一言レビュー 🔽
✔ 化学実験事故で顔の表面を失った主人公は同時に社会との繋がりも失う
✔ 妬みや恨みの中で他人の顔の仮面の下にいる自分を欺く悦び
✔ 被っている仮面のヌメヌメな湿ったパワーに酔う主人公、後味の悪い不条理の傑作
★★★★★ 世間や妻と人間関係上の通路を失った彼は、他人の顔の仮面の下で何に対し妬み恨むのか。姑息な仮面づくりという無駄な行為に没頭しいい気になってる自分、その自分を欺いている悦び。なぜ太古から人はここまで仮面にこだわるのかという私の個人的な興味、疑問の神髄はここにあった。
🔽🔽 読書記録 🔽🔽
久々の安部公房、やられた。
ただ単に仮面を被って他人になりきる話と勘違いしてたおかげで、どんどんと深く落ちていった。
仮面というのは実は歴史上ずっと人々のすごく身近にあり、どの文化圏にもある、という意味で人間に共通する内面的な特徴、欲望や恐怖や美なんかの、普遍的なものを表してると思う。
ずっと前に東京で仮面の展示を見たくらいから、なぜ人はここまで仮面にこだわるのか、という疑問が心の隅にずっとあった。
大英博物館にぶらりと行っても仮面ばかり探して。
で、その答えは、この本にあった。
化学実験事故で顔の表面を失った主人公は自分は世間に人間として認められないことに苦しむのだけれど、本当に耐えられない苦しみは妻からの拒否だった。
世間や妻と人間関係上の通路を失った彼は、他人の顔の仮面の下で、何に対し怒り嫉妬し妬み恨むのか。
それは結局は他人に向かった感情ではなく、無力のくせに姑息な仮面づくりという無駄な行為に没頭しいい気になってる自分自身に向かったものだった。
何度か、社会的に差別される側に自分を並べているのが興味深い。
被害者妄想、悪あがき、虚しさ、根拠ゼロの嫉妬、不条理。
妻の愛情という本来の目的よりも、そこにたどり着くまでの工程や苦悩に重点を置き、マゾヒスティックな欲望から悦びを得る。
自分を貶し変態だとほくそ笑み、自分を欺くことから起こる激しい悦び。
もうやめられない、いや、仮面作りではなくて、仮面作りに没頭するこの喜びをずっと受け止めていたい。
妄想という安全地帯から行動という危険地帯に投げ出された主人公、そしてー。
被っている仮面のヌメヌメな湿ったパワーに酔う主人公の気持ちがわからなくもない気にさせてしまう、読者が自己嫌悪に陥るくらいに後味の悪い小説。
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