
田園の憂鬱
病める薔薇
佐藤春夫, 1919年
177 ページ
新潮社
2026年10月 読了
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🔽 一言レビュー 🔽
★★★★☆ 都会に疲れ田舎に越してきた青年と妻。でも田舎の貧しさと何もなさは、外部から来る人間にとっては耐え難く、街灯のない暗闇は何度も出てくるように「闇が犇(ひし)めいている」状態となる。物語のない物語。単調な田舎の生活と人生そのものに狂わされ、あと少しで自分を見失うバランス。いやでも、ほんと、奥さんがかわいそうすぎて。
🔽🔽 読書記録 🔽🔽
想像していた通りの暗さだけど、こういう感じの流れとは。
都会に疲れ田舎に越してきた青年と妻。
すでに精神的に弱っているた彼は、田舎の何もない生活と貧しさから、みるみるうちに悪化していく。
都会に疲れた主人公の自然への淡い希望、特に何が起こるでもない日々、物語のない物語、そして静かに確実に狂っていく男。
そして正直、付き合わされる奥さんが可哀想…
気持ちは分からなくもない。
都会にいれば騒音は鳴り止まないし人間関係にも疲れる。
田舎の生活のシンプルさに憧れる気持ちは誰にでもあると思う。
でも田舎の貧しさと何もなさは、外部から来る人間にとっては耐え難く、街灯のない暗闇は何度も出てくるように「闇が犇(ひし)めいている」状態となる。
冒頭の昼間の明るさから、彼の精神状態にリンクして雨が続き夜の闇が包むが、この青年の人生の一ページに過ぎないことも重要な気がする。
自然は生のエネルギーに満ちていて、生きるエネルギーのない彼は自然に対し感動し苛立ち敗北する。
主人公は何度も古典文学の文章などを思い起こすが、それらは海外文学であり西洋の文化であるのも見逃せない。
大正時代は日本で初めて文学青年が世界の名作を読むことができた時代だそうで、立派で素晴らしい世界を読み漁れる、まるで手に届くかのように思われる世界。
だが、実は届いていない、海外文学はホームではない。
彼の西洋文学への知識と傾倒にも通じる気がする、彼には大自然が素晴らしく壮大で立派すぎた。
素晴らしい大自然と彼は同じ空間にあるにも関わらず、全然違う方向に向かっていて、それが憂鬱を加速する。
廃墟に潜む薔薇は病んでいる。
幻想としか言えない、彼の芸術的な期待はことごとく破れる。
単調な田舎の生活と人生そのものに狂わされ、教養があるのに才能が発揮できず、不眠に悩み、昔の母の病気の姿を想い、ギリギリの状態であと少しで完全に自分を失うバランス。
いやでも、ほんと、奥さんがかわいそうすぎて...
この本では本人のあとがきや谷崎潤一郎の当時の「序」もあり、解説と合わせると本編以外の文も読みごたえがある。
著者の佐藤春夫も、これは処女作で、つぎはぎで、それでもこれはこの状態で出して良い云々、あとから色々と言っている点も面白い。
「おお、薔薇、汝 病めり!」
の薔薇は(そうび)だそう。そうび。
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田園の憂鬱 (新潮文庫)