『Smash and Grab』 Sunanda K. Datta-Ray 1984年 感想 | シッキム王国の壮絶な歴史

🔽ログ🔽
Smash and Grab
Annexation of Sikkim
Sunanda K. Datta-Ray, 1984
433 pages
読了=2025年1月
🔽🔽 読書記録 🔽🔽
何年も探した結果やっとデジタル本で友人に送ってもらった。結局紙媒体の本はインド政府に出版停止された本なので、探してもない。
いやというか発売禁止にすると余計に盛り上がるから、印刷停止命令を出したそう。結果は同じこと。
(追記;アマゾンで今年2025年から電子書籍として入手できます。リンクは↓)

別のシッキムについての本で完全に魅了され2023年にシッキムまで行きました。
あの辺は本当に不思議。ヒンドゥー教徒が過半数なのに(ヒンドゥー教のネパール系は80%以上)、寺院は仏教のお寺が多い。

インド政府が出版後にすぐ停止させた理由は良くわかる。
これは絶対に読んでもらいたくない。

チョギャル(チベット系シッキム国王)を個人的に知っていたジャーナリストが書いたいわゆる暴露本で、彼が聞いたこと、見たこと、交わした会話、肌で感じたこと、当時の新聞記事など、この数年間の様子がこと細かく記録されている。

シッキム王国の歴史の基本的な知識がないとこの本は難しい。
その歴史自体についてちょっと簡単にいうと。
シッキムはインドの北東部、ネパール、チベット、そしてダージリンのあるインド西ベンガル州、ブータンと各国に囲まれている、すごい立地。ヒマラヤ山脈の麓で冬は厳しいけれど豊かな地。
長い間チベット系をトップに現地民レプチャ族と静かに暮らしていたけど、英国の紅茶産業がダージリンで始まり、18世紀に働き手としてものすごい数のネパール人が流れ込んできて、上流階級が少数民族となり、大半を占めるネパール系が差別されるという不思議な形に。(これはいまでもグルカ運動が続いていて解決されていない問題)
1947年インド独立時にダージリンやカリンポンなどはインド西ベンガル州になるが、シッキムはそのままシッキム王国を維持。
チョギャルが若いアメリカ人女性と再婚し東洋のグレース・ケリーと話題になったことで知られているかも。

シッキム王国がインド、シッキム州になったのは1975年。
インドは英国の植民地主義に苦しみ、独立を勝ち取って30年もしないうちに、インド自らがシッキム王国を植民地化したわけで、この史実は非常に都合が悪い。
嘘、マインドコントロール、偽りの約束、賄賂にフェイクニュースになんでもあれ。
そして圧倒的で一方的な暴力。
Smash=ぶち壊して、grab=奪え。
道徳的にまずいことは全部あった。
インドはメディアをコントロールしてシッキム国王を悪者に仕立て上げ、増え続けるネパール系と権力を持つチベット系の社会問題を悪用し、慎んだ生活をしていた人々を騙して、インド側は見事に嘘に嘘を重ね、反対派を暴力で押さえつける。
ふと気がつけば、シッキム国民たちは自分達が進んでインドに吸収されることを望んでいるかのようになってしまい、最後はインドが軍隊を送り込み、あっという間に国はなくなった。
まさに植民地主義の鏡の様なやり方。少数の外国人が強すぎる権力を振りかざす。
インドの政治は複雑で私は勉強不足の部分も多かったけど、それでもあからさま。
シッキム国王は確かにネパール系を差別していたけれど、シッキム王国内で解決方法はあったかもしれない。
でも、それでも、インドはシッキム王国のあの立地が欲しかった。数年かけて重要人物たちを手懐け、確実にインドのものにしたかった。
どんな手を使ってでも。
このインドの暗い現代史を今のインド人はどこまで知っていて、どう思っているのか。
多分知らない。シッキム国民たちは自らの意思で正当な方法で素晴らしい国インドの一部になれた、と教えられているから。


🔽 関連ページ 🔽
English review
"Smash and Grab" Sunanda K. Datta-Ray (1984) Review | A dynamic history of Sikkim
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Smash and Grab: Annexation of Sikkim (English Edition)









コメント

“『Smash and Grab』 Sunanda K. Datta-Ray 1984年 感想 | シッキム王国の壮絶な歴史” への2件のフィードバック

  1. “Sikkim, Requiem for a Himalayan Kingdom” Andrew Duff, 2015 / (シッキム) >> – 赤パンの本棚 のアバター

    […] 🔽🔽 読書記録 🔽🔽シッキム王国がインドに吸収される前の数十年を詳しく書いたシッキムの歴史の本でありながらも、その最後のチョギャル(王様)であるトンドゥプ・ナムゲルのストーリー。シッキム、現インド シッキム州はネパール、ブータン、チベットなどに囲まれたヒマラヤ山脈の東に位置するエリア。地形的に厳しいエリアでありながらも重要な国々に囲まれた特殊な地理もあり、17世紀からはチベット系の王チョギャルが治めていて、1975年にインドに吸収される。知れば知るほど面白くて仕方がないのです。この本のスコットランド人著者は、幼い頃に祖父が語ってくれたシッキムに憧れ、ついにその地を訪れる。ペリンの町の外れにあるペマヤンツェ寺院で、ちょっと変わったに僧に出会い、お前はシッキムの何を知っているんだ、と言われ、ある本を渡された。そこから彼の本格的な研究が始まる。その僧こそ、当時国王の側近であった人物であり、その本が最近私もやっと読めた本Smash and Grabなんですね。ヒマラヤの文化が集中しているシッキム、元は現地民が住んでいたけれど、チベット系の王ができたことで文化的に仏教中心になっていって、でも19世紀ごろからは大英帝国も入り込んできて、農業改革を行うに当たり、歴史的にも敵対していたネパール人をシッキムに移住させる。チベットや中国が権利を主張するもイギリスの保護国となったシッキム、インド独立後はその権利を引き継いだインドの保護下になるも、最後のチョギャル、トンドゥプ・ナムゲルの方針はシッキム独立であったため、ネパール系に多かった親インド派と国内で対立が続き、親インド派を手懐けたインドの後押しで王政は崩壊、あっというまにインド軍に囲まれ、アメリカに亡命。と、簡単な歴史はこんな感じで、この本は最後のチョギャルに焦点を置いたものでありながら、前後の流れもわかりやすい。インド、中国、イギリスと巨大な権力がこの小さな王国の上で渦巻いている。自分の王としての権利にしがみつき、若いアメリカ人の王妃(東洋のグレース・ケリー)に操られているんだ、出来損ないの政治家だ、と色んな意見はあるけれど、結局のところシッキム王国に何ができたか。インドの手下となったネパール系の反対派との動きの詳しい本はこちら。“Smash and Grab” Sunanda K. Datta-Ray 1984 >>インドとなった現在もインドからシッキム州に行くには検問を通ります。私は2023年に行ったけど、外国人は要ビザ。シッキム州でシッキム人以外が不動産を買ったりビジネスを始めるのはかなり困難。面白いのは、18世紀から圧倒的にネパール系が多いのに、観光地も含め主要な寺院はチベット仏教系。自然が豊かなので次回行くときはぜひもっと北部に、それこそこの著者が訪れたペリンに。 […]

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  2. “Sikkim, Requiem for a Himalayan Kingdom” Andrew Duff (2015) Review | Fell in love with Sikkim – 赤パンの本棚 home のアバター

    […] Buddhist temple near Pelling, he met a strange monk who gave him a book to read.The book was called Smash and Grab (my review here), the monk was Yongda who used to be the chogyal's Captain, and this is how his work has […]

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