★★★★★ 今日のアジアを造り上げた分離独立。現在のイエメンからミャンマーに広がっていたインド帝国で民族や宗教の枠を超えてコスモポリタンな社会に生きていた人々の生活が命が粉々に引き裂かれた。現在も続く、誰も知らない誰も語らない暗い歴史を丁寧に書いた、今後の歴史に残る一冊。
🔽 基本情報 🔽 Shattered Lands Five Partitions and the Making of Modern Asia Sam Dalrymple, 2025 シャタード・ランド 5つの分離独立と現代アジアの誕生 (日本語訳なし) サム・ダルリンプル 528 pages 2025.09 読了
🔽🔽 読書記録 🔽🔽
現代アジアを造り上げた分離独立、パーティション。
その背景は日本人だけでなく、当事者のインド周辺の現地の人にも、英国人にも世界中でも知られていない。
バングラデシュ、ミャンマー、カシミヤ、そういうニュースで見る地域の問題は、自然発生したものではなく、もちろん現地の人が単純に暴力的だからでもない。
何事にも理由がある。
日本での第二次世界大戦の終戦日のぴったり2年後、インド帝国が英国から独立。
それは有名だけれど、そのインド帝国、つまり現在のイエメンからミャンマーまでの壮大なエリアがその前後にどう分けられていったかはあまり知られていない。
というか、イエメンからミャンマーまで、その間に現在のカタール、アラブ首長国連邦、ブータン、など無数の藩王国があったのすら知られていない。
5つの分離、つまりミャンマーの独立、アラビア半島の独立、インド・パキスタン分離独立、印パによる500ほどの藩王国の吸収、バングラデッシュの独立。
「知られていない」と繰り返し書いているけれど本当にそうなのだから仕方がない。
英国はインド帝国の利益によって支えられていたけれど、大英帝国の人口は当時の世界の人口の25%!
戦争により経済が崩れ世界の4分の1の人口を支えきれなくなった英国はできるだけ早く撤退することをモットーに、アジアなんて行ったこともないロンドンの役人が駆り出されどんどん地図上に線を引いていき、しかもインド帝国に借りていたお金もほぼ無視で、しかも「せっかくなら日本を敗戦させた8月15日に独立させよう」と言い出し、十分な準備もなく独立。大英帝国といえば、どこにいっても嘘をつき続け、右に左に騙し続け、最後は自分の手は汚さずさっさと逃げ出す、いつも同じパターン。
私もそこは知っていた。エリザベス女王の旦那フィリップ殿下の叔父、インド総監マウントバッテンの当時の適当さも知っていた。そこまでは有名。
それ以外のすべてが「知られていない」、知らなかった。
Shattered Lands、粉々になった土地、というタイトルの通り。
戦時中にまずミャンマーが分離。(しかも当時ミャンマーの現ヤンゴンが世界で人の出入りが激しい港、つまりニューヨークなんか追い越した大都会だったと。なんと。)
当時人口の16%いたインド系の人間はミャンマー人じゃない、と追い出される。
この本は5つの独立分離について非常に詳しく描かれているけれど、5つとも現地の人々の反応、待遇、対応、残酷さはすべて似ている。
民族や宗教の枠を超えてコスモポリタンな社会に生きていた人々。
今まで近所付き合いのあった人びとが突然、民族が違うから、宗教が違うから、という理由で追い出し合い、憎み合い、殺し合う。
その度に何百万という人間が新しく引かれた国境を超え、もちろん多くは難民となり、少なくない数の人が虐待、強姦、そして殺された。
粉々になった土地、ばらばらに引き裂かれた人々。
カシミア紛争を含むインド・パキスタン情勢、ロヒンギャ難民問題などその多くは解決していない。
他のところで聞いたことだけど(彼のお父さんのポッドキャストで)、この時代を生きた人は、それこそ戦争に駆り出された日本のおじいちゃんたちもそうかも知れないけれど、多くを語りたがらない。
彼らはその恐怖と過ちと恥を墓まで持っていくつもりで口は開かない。
その子どももなんとなく聞きづらくて追求しない。
でも今、孫の代になって初めて真相が明らかになっているという現象が起きているらしい。
細かく言うと色々とあるんだけど、それはいつかきっとこの本が日本語に訳され日本でも多くの人の手にわたることを願い省くとして(ミャンマーには日本もかなり関わってきます)、全体として印象深かったのは、分離独立前は各々の地域によって生活習慣も違っていたのに、セキュラ―な社会、非宗教的な社会だったということ。
完全に平和かといえばそうじゃなかったにしてもギリギリのバランスは保たれていた。
それが突如、超宗教的で、国民主義的、ナショナリズムに走ったはっきりいって差別的で軍事的で暴力的な社会を次々と生み出してしまった。
英国の下で植民地化された社会が良いとは言えないけれど、じゃあ紛争のないアジアを目指したとき、人々はセキュラ―であることを目指し宗教や伝統を蔑ろにしたほうがいいのか。
共同体が与えてくれる安心感は過去の産物になるのか。
伝統は狂暴なのか。
この本には毎ページに驚きが隠されている。
素晴らしい歴史本は大概まるで物語を読んでいるように感じるけれど、この本もそう。
28歳の著者サム・ダルリンプル氏はヒューマニズムに溢れ人間的で、情熱を持った人物だと言うのが手に取るようにわかる。
これだけ残酷な歴史を語る本の中にも、それでも宗教の違う友人が命をかけて助け合った話をきちんと残してくれるし、彼自身も独立分離によって故郷に帰れない人の代わりに国境を超えて代理で会いに行くという活動もしている。
もちろん父親がウィリアム・ダルリンプルということはプラスに働いているけれど、彼は20代にして初出版にして、もう自分の足で立っている歴史家の一人。
インドでもダルリンプル親子がベストセラーのチャートにずっと上ってたし、インド史周辺はなかなか面白いことになりそう。
🔽 関連ページ 🔽
English review
"Shattered Lands" Sam Dalrymple(2025) Review | Making of new Asia
🔽 買えるところ 🔽
●●●●●楽天●●●●●
●●●●●アマゾン●●●●●

Shattered Lands: INTERNATIONALLY BESTSELLING AND PRIZE SHORTLISTED NEW HISTORY OF FIVE PARTITIONS AND THE RESHAPING OF MODERN ASIA (English Edition)




コメントを残す