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  • 『(メアリ・シーコール)』 ロン・ラムディン, 2005年 感想 | クリミア戦線の看護婦 

    『(メアリ・シーコール)』 ロン・ラムディン, 2005年 感想 | クリミア戦線の看護婦 

    🔽 基本情報 🔽
    (メアリ・シーコール)
    ロン・ラムディン, 2005年
    Mary Seacole
    Ron Ramdin, 2005
    2020.07 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    ジャマイカ出身の混血の英国人の看護婦の伝記。
    幼少期から医療や看護に携わるも混血であること、女性であることで大きく差別を受ける。
    クリミア戦争のとき英国のボランティア看護師を志願するも、白人でないことでフローレンス・ナイチンゲールに拒否される。

    それでも自分の経験と知識は役に立つと信じ、自費でクリミアに入り、ナイチンゲールたちが後方の安全なエリアで看護をしている中、戦場にかぎりなく近い場所で看護施設を設ける。
    食堂のようなビジネスを立ち上げ資金稼ぎにするという偉業。
    戦場で兵士にとってのくつろげる場所を提供し、その売り上げを兵士の身体的な傷を癒す。

    拒否られようが差別されようが、とにかく怯まない、自分の能力を最大限に使って人を助けるために生きる、すごい。

    英国人、白人である兵士たちを「息子たち」と呼び、彼らからも信頼され愛される存在になる、これはのちに彼女が破産したときに当時の兵士たちが助けたということでも証明されている。

    逆に神経質で有名なナイチンゲールの暗い部分を浮かび上がらせる話でもある。
    人手が足りないのに人種差別を優先したあとも、戦線で生き生きと兵士たちの心と体の看護に徹したシーコールを、兵士に酒を飲ませた、うるさい、と非難。
    そして英国という国もシーコールの偉業を100年近く闇に葬り、ナイチンゲールのみを全面的に「天使」化した。

    決して忘れてはいけないのはシーコールは「混血版ナイチンゲール」ではない。
    彼女はメアリ・シーコールという一人の独立した英雄である。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    “Mary Seacole” Ron Ramdin (2005) Review | Determination to help her "sons"
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  • 『マイ仏教』 みうらじゅん, 2011年 感想 | 気軽に仏教もオッケー

    『マイ仏教』 みうらじゅん, 2011年 感想 | 気軽に仏教もオッケー

    🔽 基本情報 🔽
    マイ仏教
    みうらじゅん, 2011年
    192 ページ
    2026.02 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    『日本仏教史』の知的なアドベンチャーから、マイ仏教という、個人の内側を覗くかのような本へ。

    実際はみうらじゅん氐を詳しく知らないので失礼ながら彼の普段の活動も知らないのですが、仏教との関係でいうととても納得する点が多い。
    ただ私はそこまでハマってはいないんですが。

    「地獄ブームと後ろメタファー」の章には納得。
    庶民をビビらせないと宗教の力は発揮できないですよ。
    何兆年も焼かれる地獄に行きたくない、と思う人が増えれば自ずと効果が出てくる。
    地獄の話は前の「日本仏教史」にも出てきたんですが、イタリアではダンテが有名で地獄のイメージが何世紀も受け継がれているのに日本でちょっと弱いので、ダンテに対抗してそこも勉強したい。

    この本が出版されて十数年たち、彼のいうように、愛嬌のある僧侶もどんどん出てきた。
    上から目線でないお坊さんのお陰で、ツイッター上でも仏教を身近に感じられるし、ポップだったりアングラな雰囲気のお坊さんの活動もアリになってきた。
    彼だって特撮や怪獣などから仏像に渡って仏教そのものに興味を持つようになったし、そういうポップな側面から気軽に仏教に興味を持つのもオッケーなのでは。

    今後も上下関係ではなく、同じ目線のお坊さんの活躍を期待。
    🔽 関連ページ 🔽
    タグ 仏教
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  • 『日本仏教史』 末木文美士, 1992年 感想 | 仏陀の教えをローカライズ

    『日本仏教史』 末木文美士, 1992年 感想 | 仏陀の教えをローカライズ

    🔽 基本情報 🔽
    日本仏教史
    思想史としてのアプローチ
    末木文美士, 1992
    412 ページ
    2026.02 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    日本にやってきた仏教が、どう「日本の仏教」になったのか。
    とにかく脳みそ刺激されまくり。
    裏表紙にもある通り、知的興奮に満ちた旅、そう、知的アドベンチャー。

    偶然手に取った本が自分の想像以上に興味のど真ん中に命中することがある。
    私は仏教に興味があるし、その考えで気分がふっと軽くなることがあるので本を読んだりするけど、祈ることもないし、どこまで信じるているかといわれたら答えに困る、だってたぶんそんなに信じてない、でも実家は仏教。

    そんな典型的日本人である私が興味を持つ理由は正にこれ、ここにじっくりと紹介されている。

    インドから、中国という強力でレベルの高いフィルターを通して日本にやってきた仏教が、オリジナル仏教とは違う形で受け入れられ生き残っている。
    なぜ。

    仏教はその時代その時代に形を変え、その都度「日本の仏教」として存在してきた。

    貴族のために祈祷を中心とした仏教、先祖を大事にしてきた古代の日本人に合う葬式仏教、ルール重視の武士に好まれた仏教、来世の概念の薄い日本人に即座にいま浄土確定のコスパのいい仏教、そして神道と仏教がどちらも文化として存在する日本。

    そういう観点から日本における仏教の江戸時代くらいまでの歴史を紹介するのがこの本。
    仏教史に詳しくない私は次々と出てくる名前や文献に唸ってしまったけれど、知らなくても大丈夫、この本が重視するのは思想史であり仏教史の暗記じゃない。

    終章で遠藤周作の『沈黙』が出てくるけど、日本という土地の特徴は結局はこれ。
    (読んで最後に納得してもらうためここでは「これ」としか書きませんよ)
    高度経済成長期の日本が既存のものを改善して発展した理由にも通じるし、仏教と神道とキリスト教をも平然と受け入れてイベント化する理由にも通じる。
    漢文システムのお陰で後々好きなように解釈できたというのも、これに拍車をかける。
    日本以外の国の人にはわかりづらいし国内外で批判だってされる。
    でも私はこれは考えようによっては日本の強みだと思う。
    仏陀の教えを「日本の仏教」に変えた強み。


    その後の明治以降の日本の仏教の流れも気になる。
    🔽 関連ページ 🔽
    tag ; 仏教
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    日本仏教史―思想史としてのアプローチ (新潮文庫)
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  • 『アルジャーノンに花束を』 ダニエル・キイス, 1966年 感想 | 救いに溢れて

    『アルジャーノンに花束を』 ダニエル・キイス, 1966年 感想 | 救いに溢れて

    🔽 基本情報 🔽
    アルジャーノンに花束を
    ダニエル・キイス, 1966
    Flowers for Algernon
    Daniel Keyes, 1966
    2026.02 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    あまりにもチャーリイの障害が身近過ぎて客観的に感動できなかったところはある。
    逆にいうと、だからこそ痛いほどよくわかるところもある。
    なんというか、感動で涙は出ないけど、ただただ痛かった。

    でもできるだけ客観的に。
    小説の感想はいつもはできるだけ内容に触れないようにしているんですが、今回は少し内容に触れているので全く何も知りたくない人は読まないでください。

    この本が問うことは「幸せとは何」というとてつもなく大きな問。

    チャーリイの手術後すぐに、同僚の子が呟いた話にヒントがあるように思う。
    神様は私たちが与えられたもの以上のものを得ようとすることを許さない。
    彼女の考えでは、賢くなることは悪いこと。
    チャーリイは果たして周りの誰よりも賢くなることで幸せになったのか、そして良いことだったのか。
    世界中にあふれている素晴らしい知識を体いっぱい吸収できて彼はきっと、いや間違いなく幸せだったはず。
    それでも超能力がなくなるように、もっと言うと年を取って誰もがそれぞれ呆けたり遅くなっていくかのように、生きていくうえで避けられないサイクルとして、何かを得ても人は必ずその何かを失う。

    知識は力、たまに力が強すぎて害を及ぼすけれど、間違いなく失うものと思えれば、その山と谷をしっかりと自分のものにすればいい。
    得て、失って。
    広い目で見れば失うことだって、不幸と一言では言えない、そんなに狭い視野の話をしていない気がする。

    失ったと思った友情も、いつか戻ってくるかもしれない。
    人は大きな共同体、コミュニティの中での持ち場があるということも考えさせられる。
    (特にアメリカのような超個人主義の中でそれぞれの共同体ということも)

    そして、母親の存在。
    母親は悪い人間だったのか、自分の息子が「普通」であることを望むのは悪いことか。
    道徳の授業で差別はいけませんと教えられていると、他人ごとでは簡単に言える。
    自分の息子は他の子と同じように会話したり仕事をしたりすることはないと絶望した母親には、そんな他人事は通じない。
    それでもチャーリイのことを第一に考えることができればよかったのに、彼女は自分の不幸に集中するあまり息子のことを愛することを忘れていた。

    みんな、自分が一番大切。
    でも周囲の人間を傷つける気持ちもない、ただどちらもこなすのが難しいだけ。
    許しと救いにあふれているストーリーで本当に良かった。

    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    “Flowers for Algernon” Daniel Keyes (1966) Review | Forgiveness and salvations

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    アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV)
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  • 『The Other Middle Passage』 ロン・ラムディン, 1994年 感想 | 奴隷制度は名前を変えるだけ 

    『The Other Middle Passage』 ロン・ラムディン, 1994年 感想 | 奴隷制度は名前を変えるだけ 

    🔽 基本情報 🔽
    The Other Middle Passage:
    Journal of a Voyage From Calcutta to Trinidad 1858
    ロン・ラムディン, 1994
    Ron Ramdin, 1994
    62 ページ
    2020.06 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    インド系トリニダード人の友人の著作。
    インドから西インド諸島、カリブ海地域に送られたクーリー貿易(苦力貿易)といわれる新しい形の奴隷制度のついて。

    冒頭は輸送された労働者のコンディションについて、特に一つの船の状況を詳しく書いている。
    1858年に出向したその船は、108日かかった輸送で324人中124人が死亡。

    奴隷制度がなくなっても、当時のカリブ海ではサトウキビなどの栽培で全く人手が足らない状態になり、アフリカではなくインドから自由を奪って過酷な状況下の労働のためだけに人々を輸送。

    後半になるとその船内の様子や船長の奥さんの日記などによって当時の状況が詳しく書かれている。
    といっても、つまりは病気になって当たり前の環境で毎日人が病気になり、毎日人が死んでいく様子が綴られる。

    友人の彼も、クーリーとして送られて来た人の子孫で、白人の下に黒人、その下にインド人がいるという子供時代を過ごす。
    日本ではこの本は手に入りにくいので、もし興味があればご連絡ください。

    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    “The Other Middle Passage” Ron Ramdin, (1994) Review | Another slave trade
    tag 植民地主義 インド
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    The Other Middle Passage: Journal of a Voyage From Calcutta to Trinidad 1858
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  • 『乳と卵』 川上未映子, 2008年 感想 | 女性の普通というタブー 

    『乳と卵』 川上未映子, 2008年 感想 | 女性の普通というタブー 

    🔽 基本情報 🔽
    乳と卵
    川上未映子, 2008
    144 ページ
    2020.05 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    こんな作品は他にない。

    女3人の3日間。
    女であること、というテーマから、具体的に性的なツールになる胸、生殖のツールになる卵子、その過程である生理、女同士を見る事、見られる事。
    男の役割はなんなのか。
    そういう実は日常茶飯事だけど、タブーになる女性の普通を、不思議な文章で表す。
    読みにくい長文と入り混じる大阪弁。

    本には実は2作品が収められていて、もうひとつの方は繰り返す日常の中で女性が抱く淡い希望について。

    二作品とも地に足がついていて、日常の真実を語っていて、テーマや物語は鋭いのに、文体は優しく温かい。さすが芥川賞。

    世界中でファンが多い著者、私もロンドンで知って日本語で読む機会を待っていました。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    "Breasts and Eggs" Mieko Kawakami (2008) Review | Women's normality, society's taboo
    tag 女性主体
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  • 『黒い皮膚・白い仮面』 フランツ・ファノン, 1952年 感想 | 劣等感と優越感の構造

    『黒い皮膚・白い仮面』 フランツ・ファノン, 1952年 感想 | 劣等感と優越感の構造

    🔽 基本情報 🔽
    黒い皮膚・白い仮面
    フランツ・ファノン, 1952年
    Black skin, white masks
    Peau noire, masques blancs
    Frantz Fanon, 1952
    2020.05 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    ポストコロニアリズムの古典。
    黒い皮膚を持ちながら白人として生きるとはどういうことか。
    いやもっというと、白人としていきたいと思うこととは、どういうことか。

    著者ファノンはフランスの植民地マルティニーク出身の精神科医。
    精神科医ということは潜在意識の専門家であり、つまり制御された欲求、つまり性的欲求、もしくは恐怖の専門家。

    黒人は、白人社会に身を置いて初めて黒人となる。
    白人社会とは植民地主義の世界であり、黒人は常に自らを否認しながら生活する必要がある。
    自己否定を避けることができても、主体的にはならない。
    逆に白人は、自分たちが勝手に作り上げた黒人像に怯えながら生活する必要がある。
    野蛮で、なにより性的に強力な黒人像。
    面白いのは、恐怖症という怯えは実は深いところにある欲求から生まれるという論点。
    つまり、差別主義者は心の奥では黒人に脅かされたいという欲求がある、と。

    もう一つ面白い点は、彼はフランスの植民地主義について語るという点で、奴隷制度の廃止はアフリカ人が戦って得たものではなく、白人のご主人様から与えられたものだという観点。

    もちろん、黒人だけでなく私自身のように白人社会で生きる白人以外の人間は常に自分の皮膚の色がもたらす余計な意味について意識しながら生活するわけで、どこにいても白人が一番優位である事実は避けられない。
    日本は植民地化されていないので、日本にいる限り自分の肌の色から生まれる原罪を意識することはほとんどない。
    むしろ日本人特有のコンプレックスでアジアにおける「黄色い皮膚・白い仮面」というちょっと違う側面もあるが、それはここではさて置き。

    あと、上記にもちょっと書いたように、もちろん映画や娯楽、アート、文化において黒い皮膚というのは悪と描かれるので、アジア人を含む共同的なイマジネーションにおいて、その歴史を知っていなくても「黒=悪」という方程式が植えつけられる。

    ファノンは、植民地主義に植民地化されたくないという。
    黒人は劣等感から解き放たれ、白人は優越感から解き放たれるべきだと。

    そして70年以上たった今。
    人種を超えたコミュニケーション、友情、恋愛関係は普通になって、人種差別をする人間は見下される世の中になった。
    でも、私たちは本当の意味で人種から自由になったのか。

    ファノンの苦悩はなくならなかった。
    例え知識人として知的な発見をしたとしても、サトウキビ畑で労働を強いられている8歳の子の生活は変わらないと。
    問題は単純に皮膚の色だけでもない。
    白人社会で生きるミドルクラスの黒人の苦しみと、その日の生活がやっとの黒人の苦しみ、二人の問題は同じものではない。
    人種の問題は多くの段階を含み、層を含み、複雑である。

    でも、それでも、たとえ複雑であっても解決方法がなくても、目を背けない、そのためにこの本を読む。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    tag 植民地主義
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    黒い皮膚・白い仮面 【新装版】



    フランツ・ファノン『黒い皮膚・白い仮面』 2021年2月 (NHK100分de名著)
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  • 『猫と庄造と二人のおんな』 谷崎潤一郎, 1937年 感想 | 人間は誰でもいい

    『猫と庄造と二人のおんな』 谷崎潤一郎, 1937年 感想 | 人間は誰でもいい

    🔽 基本情報 🔽
    猫と庄造と二人のおんな
    谷崎潤一郎, 1937年
    日本
    176 ページ
    2020.04 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    猫のリリーがすべての中心。

    男はリリーを愛しリリーのみを愛する。
    人間の女は福子でも品子でも母でも誰でもいい。

    谷崎らしい片思いのドラマなんだけど、溺愛の対象は猫。
    しかも清楚な名前の西洋種の雌猫。
    主人なのか召使いなのか、男の愛情には気ままにしか対応しない。「痴人の愛」のナオミを極限まで引っ張って、ここでは美しい西洋猫リリーになる。
    周りに流される庄造、庄造に捨てられた女、猫以下の女。

    庄造の幸せとはつまり、猫のためだけに全てを捧げる事だった、んですね。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    タグ: 谷崎潤一郎

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  • 『刺青・秘密』 谷崎潤一郎, 1910年 感想 | すでに確立された谷崎文学

    『刺青・秘密』 谷崎潤一郎, 1910年 感想 | すでに確立された谷崎文学

    🔽 基本情報 🔽
    刺青・秘密
    谷崎潤一郎, 1910
    日本
    336 ページ
    2020.04 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    谷崎潤一郎の処女作「刺青」、すでにエロティシズム、フェティシズムはテーマとして確立されていて、でも初々しさというか生々しさがある。

    足の美しさでその女の真の姿を見出し、目覚めさせる。
    さすがとしか言いようがない。

    「秘密」の逢引と悲しさも、「少年」の無邪気で偽りのない暗い欲望も、「二人の稚児」の純粋さも、すべてがつながっている。

    解説にあった永井荷風の言葉にある通り、谷崎が他と違っていたのはその都会的な雰囲気であるわけで。田舎っぽい貧しさなど一切関係ないかのような、お坊ちゃん、お嬢さん、紳士淑女の生きる世界、その美しい世界に潜む欲望の影。
    それが谷崎文学の光。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review “The Tattoo” Junichiro Tanizaki (1910) Review | Early Tanizaki
    タグ: 谷崎潤一郎
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  • 『無敵の読解力』 池上彰 佐藤優 2021年 感想 | 最強コンビが見分ける >>

    『無敵の読解力』 池上彰 佐藤優 2021年 感想 | 最強コンビが見分ける >>

    🔽 基本情報 🔽
    無敵の読解力
    池上彰 佐藤優, 2021
    日本
    256 ページ
    2026.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    おお、情報量が多い上に全て興味深い。

    この本のテーマが、情報処理能力を問われる今の社会で生き抜くにはまずは本を読め、とあるので、つまりこの本は初っぱなから、テーマからして重要な情報がつまってる。

    もし大事な箇所を線引きしようと思ったら全ページに線を引くことになるって言うくらい、中国やアメリカの現状、共産主義と本家のマルクス、マキャベリ推しの菅元総理の危うさ、読書をしない日本の政治家、などなど語られる一つ一つの事柄が常にフル回転。

    個人的には最後の、外国人による日本人論についてが特に興味深かった。いやそんな控えめでなく、そうなんですよ!と叫びたかった。
    戦時中や戦後直後の日本人論は、未だに的を得ている点が多い、天才であっても個性は邪魔にされるなどなど。
    でも意外でありつつ納得したのは、日本における子供や若者間でのシステマティックないじめを指摘されていること。
    これをなくしさえすれば日本は改善されると。
    そしてもちろんこれは約80年たっても教育の場で放置されている。
    明治維新が自分達の独立したイデオロギーによるものでないというの話も、心のモヤモヤ取り払ってくれた感じ。
    「菊の刀」も積読してるので読まなきゃ。

    そして一時期、日本人は凄いという本が「日本で」売れ、そういう本を外国人が誰も書かなくなったら自分達で日本は素晴らしい、特殊であると誉め始めた。痛い。
    さらにこの本が出版された数年後の今、外国人旅行者が円安の日本を安く消費している、というこれも痛い現実。

    参考書としておすすめの本リストがたっぷりあるので、ほしい本リストがまた長くなりました。
    🔽 関連ページ 🔽
    共著 「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」池上彰 佐藤優, 2015
    🔽 買えるところ / あらすじ、詳細 🔽

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  • 『陰陽師 生成り姫』 夢枕獏, 2003年 感想 | 源博雅が主役の長編 >>

    『陰陽師 生成り姫』 夢枕獏, 2003年 感想 | 源博雅が主役の長編 >>

    🔽 基本情報 🔽
    陰陽師 生成り姫
    夢枕獏, 2003
    389 ページ
    2026.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    「平安時代は、雅な闇の時代であった。
    鬼も、人も、もののけも、同じ闇の中で呼吸している」

    今回は初の長編。
    そこに、もう短編で一度語られた話「鉄輪」を掘り下げるという粋な試み。
    それでもって主人公をシリーズではバディ役の源博雅にするというファンには嬉しい試み。

    源博雅は安倍晴明に何度も何度も「お前はいい漢だ」といわせるほどいいやつで、この陰陽師シリーズに人間味があるのは間違いなくこの男のお蔭で、好きにならずにはいられないキャラ。
    今回も凄く良いのです。

    源博雅の12年前の恋、鬼になる女、全てを受け止める安倍晴明と源博雅の二人。
    じっくりと長編として描かれるので最後の感動もしっかりと高まる。
    🔽 関連ページ 🔽
    シリーズ第一弾 『陰陽師』 夢枕獏, 1988 感想 | なに本当に面白い
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    陰陽師 生成り姫 (文春文庫 ゆ 2-9)


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  • 『陰陽師 鳳凰ノ巻』 夢枕獏, 2002年 感想 | シリーズ第四弾 >>

    『陰陽師 鳳凰ノ巻』 夢枕獏, 2002年 感想 | シリーズ第四弾 >>

    🔽 基本情報 🔽
    陰陽師 鳳凰ノ巻
    夢枕獏, 2002
    272 ページ
    2026.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    シリーズ第4弾。
    短編で4冊目なのに、ダラダラとならずリズムもキープする。
    それはもうダイアモンドの原石である二人組を産み出したからノリに乗った状態が続くからだろう。
    もちろんスタイルを変えずに話を変えるという型で4冊目に来たわけだけど、なんと最後の短編でスタイルを変えてくる。
    今までは誰かに頼まれて、博雅と飲んでいた酒の杯を置き、ゆこう、と妖しい存在に向かっていっていたのが、今回はライバルと腕比べとは。

    やっぱり読み続けるしかないね。
    🔽 関連ページ 🔽
    シリーズ 『陰陽師』 夢枕獏, 1988 感想 | なに本当に面白い
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    陰陽師 鳳凰ノ巻 (文春文庫 ゆ 2-7)


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  • 『ジェーン・エア』 シャーロット・ブロンテ, 1847年 感想 | ノーという女性 >>

    『ジェーン・エア』 シャーロット・ブロンテ, 1847年 感想 | ノーという女性 >>

    🔽 基本情報 🔽
    ジェーン•エア
    シャーロット・ブロンテ,  1847
    Jane Eyre
    Charlotte Bronte
    2026.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    古典って避けてしまう傾向にあるけど、実はエンターテイメント性が高いものが多いんですよね。
    まあ、だからこそ何世紀も愛されるわけですが。

    この本もそう。
    ドロドロのメロドラマもあればロマンスもある。
    強い女性像のイメージがあったのでロマンス要素に関しては想像以上だった。
    一人の女性の惨めな子供時代を経て自らの手で這い上がる成長物語であり、フェミニズム満載であり、宗教の問題も、ちょっと怖めのゴシックでもあり、階級社会、人種、植民地主義などなど当時のイギリスにとっての社会的なテーマが盛り沢山。

    そして当時の批判は目に浮かぶよう。
    家父長制に服従しない女?男にノーという女?地位もなく地味な見た目のくせに?なんということでしょう。

    もちろん今日の社会では見方は変わる(といってもいまだに女のくせにという意見は無きにしも非ず)。
    彼女は男性にただ単に宝石やきれいな服を浴びるように与えられる人生は送りたくない。
    自分も対等に貢献できると確信できる日まで彼女は愛する人をも拒否し続ける。

    あと「屋根裏部屋の狂気の女」もとっても興味深い。
    当時の差別主義が隠さずに描かれており、混血の人間、黒人であるこの女は理性がなく暴力的で、高貴な白人の文明から遠ざけなければいけない。
    そしてジェーン本人はあまり怖がっても憎んでもいないというところも気になる。
    この辺りは本が出ているそうなので、いつか。
    🔽 関連ページ 🔽
    English review “Jane Eyre” Charlotte Bronte (1847) Review | A woman who says no
    tag 女性主体
    tag フェミニズム
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  • 『殺人の門』 東野圭吾, 2003 感想 | 著者の幅の広さを感じる人間ドラマ

    『殺人の門』 東野圭吾, 2003 感想 | 著者の幅の広さを感じる人間ドラマ

    🔽 基本情報 🔽
    殺人の門
    東野圭吾, 2003
    624 ページ
    2025.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    日本語いままで読んだ東野圭吾の派手さがない。
    凄いトリックもマジカルな要素もない。
    だからその分、この本のストーリーの素晴らしさが強調されている。

    お金持ちに生まれたのに次々と続く不幸で苦しみに溢れた半生の主人公、その影にいつもいる幼馴染み。
    タイトルからも分かるように殺人がテーマでずっとその匂いだけがしているサスペンスの側面と何が起こっているんだろうと想像を巡らさせるミステリーの側面。

    昭和を感じる人間ドラマは松本清張のような面白さがあり、巧みな謎解きミステリーだけではない、東野圭吾の作家としての幅の広さ、奥の深さを確実に掴める一冊。


    🔽 関連ページ 🔽
    tag 東野圭吾/Keigo Higashino

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  • 『(ケシの海)』アミタヴ・ゴーシュ , 2008 感想 | アヘン戦争直前の奴隷船にて

    『(ケシの海)』アミタヴ・ゴーシュ , 2008 感想 | アヘン戦争直前の奴隷船にて

    🔽 基本情報 🔽
    Sea of Poppies
    Amitav Ghosh, 2008
    (ケシの海)
    アミタヴ・ゴーシュ
    559 ページ
    2025.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    噂には聞いていたけど、やっぱり圧倒的に面白かった。

    大英帝国が治めるインド、そこで行われるケシの栽培、そしてアヘン戦争の匂いを受けて奴隷船に乗り込む人々。
    それだけでもう本を開く前から自分好みなのは一目瞭然。

    開けてみると、個性的な登場人物がどんどん出てくる。
    辛い結婚生活から逃げた主人公の女性ディーティ、フランス人ポーレットとインド人ジョドゥの兄妹愛、破綻した繊細なラジャに、秘密を持ったアメリカ人船乗りザッカリー、などなどがそれぞれの思いを胸にモーリシャス諸島へ向かう奴隷船アイビス号に乗り込む。
    その流れだけで分かるよう、壮大なストーリーがこの3部作で描かれるのです。

    女性たちの無謀さと、それについて行ってる男性たちだったり、騙されて人生が一転するラジャの変化などがエンターテインメントを込めて書かれているのでこの後どうなるのか。
    まだ最初の一冊を読んだばかり、先が気になる。

    日本ではまだ翻訳されてないので残念。
    英語はちょっと難しいです、というかインド英語やそれぞれの訛りなどもあり分かりにくい。


    🔽 関連ページ 🔽
    English review “Sea of Poppies” Amitav Ghosh (2008) Review | Leading up to Opium War
    category 文学 インド 南アジア/Indian S. Asian Lit.
    tag インド/India
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  • 『父と暮らせば』井上ひさし, 1998 感想 | 戦争で残された人々の痛み

    『父と暮らせば』井上ひさし, 1998 感想 | 戦争で残された人々の痛み

    🔽 基本情報 🔽
    父と暮らせば
    井上ひさし, 1998
    128 ページ
    2025.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    前書きで著者はずっと命の限り広島と長崎のことを書いていくという強い意思を示している。
    絶対に絶やしてはいけないことだから。

    その思いで書かれたこの作品。

    ここにじんわりと写された苦しみと痛さと、自分なんかが幸せになってはいけないという葛藤。
    父の生と死を越えた愛情と、娘の方からも深い愛情があり、原爆で命を奪われた人と「死ねなかった人」の次元を越える慈悲に溢れていて、短いながらもその深さに、読む人の心にずっと残るものになる。

    ユーモアに溢れていて、広島弁でゆっくりと進んでいく物語。
    私はまだ原爆の巨大な被害にあった人の話を直接聞けた世代。
    その次に続く高度成長期のあとの明るい未来を知らない世代。

    忘れないための大切な一冊。

    🔽 関連ページ 🔽
    tag 戦争/War 
    
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  • 『深い河』遠藤周作, 1996 感想 | 生と死を受け止める

    『深い河』遠藤周作, 1996 感想 | 生と死を受け止める

    🔽 基本情報 🔽
    深い河
    遠藤周作, 1993
    400 ページ
    2020.02 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    宗教関係、宗教にまつわる積読をまとめて読む読書月間を勝手に開催した。

    当時70歳のカトリックの著者遠藤周作による、登場人物たちがインドへ向かう一冊。
    偶然一緒の仏跡訪問ツアーになった数人の日本人それぞれが後悔や喪失の中の淡い期待を胸にインド、ガンジス川へ。
    ベナレス(バラナシ、ヴァラナシ)は聖地でありガンジスに向かうことは死に向かうこと。
    彼らがそれぞれの過去を胸に、生と死が共存するベナレスで想うこととは。

    神という大きな力の信じ、ことごとく生活を否定されても、信念強く生きる青年の背負うものとは。
    色々なストーリーが、母なるガンジスに向かい、生と死を含むその母性が全ての人を隔たりなく抱き抱える。
    遠藤周作らしい、壮大であり静粛な一冊。

    70歳という年齢を迎え、きっと本人も死を意識しながら生きていく上で、彼の永遠のテーマである「日本人でありキリスト教信者であること」をもう一度振り返ってみたんだと思う。
    そしてその答えは、インドの深い河であった。


    🔽 関連ページ 🔽
    English review “Deep River” Shusaku Endo (1996) Review | Embracing life and death >>
    tag 宗教/Religion
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  • 『白い人・黄色い人』 遠藤周作, 1955 感想 | 人種と宗教の境界線 >>

    『白い人・黄色い人』 遠藤周作, 1955 感想 | 人種と宗教の境界線 >>

    🔽 基本情報 🔽
    白い人・黄色い人
    遠藤周作, 1955
    208 ページ
    2020.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    キリスト教と人間の悪。

    「白い人」
    自らの醜さを理解し、親の教育をすり抜け、劣等感を超えての空想の優越感を覚える。
    悪は普遍的であり、政治的であり、相手を潰す力を持つ。
    ついに運命の時がやってくる。
    級友を踏みにじることは全ての偽善者を踏みにじることであり、そしてこの娘を汚すのは全ての処女を汚すこと。
    これは絶対的な神を持つ文化で生きる白人の道徳の中に沸き出す悪だという事だろう。
    それを信じて耐える人間になるか信じずに悪に酔う人間になるか。


    「黄色い人」
    これは、ある意味もっと辛い。
    著者本人の一番のテーマである「日本人のくせにキリスト教信者」の矛盾がもたらす醜さ。
    戦争を生きる信者の青年は全てに疲れきっていた。
    私たち黄色い人間には、貴方達のような白い人間が恐れる神を本当は信じられない。
    私たち黄色い人間には、原罪はない、罪を背負って生きない、どうせ聖母マリアはこの国にいない。
    今日は疲れた、明日行こう。
    神を裏切った元神父はやっとこの国に住む黄色い人のその疲れた目に宿る真実に気づく。
    生も死も恐れない、罪もない、一つの神を信じない彼らの世界では罪人もそのまま救われる。
    自分たち白い手を持つ人間はこの黄色い人に近づくことができるのか。

    「黄色い人」は信じるか信じないかの二択から解き放たれた人たちのただただ疲れた瞳、諦め、そして罪のない身軽さを描く。


    🔽 関連ページ 🔽

    English review “White Man, Yellow Man” Shusaku Endo (1955) Review | Between the races >>
    tag 宗教/Religion

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  • 『インドへ』 横尾忠則, 1977 感想 | カルチャーとしてのインドへ>>

    『インドへ』 横尾忠則, 1977 感想 | カルチャーとしてのインドへ>>

    🔽 基本情報 🔽
    インドへ
    横尾忠則, 1977
    203 ページ
    2020.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽


    インドの旅行記というのは星の数だけある。
    で、これはグラフィックデザイナー、画家の横尾氏の彼の内側のインドへの旅行記。

    インドという彼が抱いた幻想の世界への旅、むしろ彼の意識の中のインドへの旅というか、本物のインドは背景に過ぎない。
    そして彼の作品を見たことがあれば何故彼がインドにこだわるか一目瞭然。
    つまり彼は意識、また無意識の中で常にインドを求めていた。

    ニューヨークでのドラッグによる「インスタント悟り」に始まり、ビートルズを通り、ヒッピー、禅宗を通り、三島由紀夫の死によって、インドへ導かれる。

    この本ではメインはカシミール地方へ行ったときのことがメイン。
    最初にインドに行った強烈な印象を乗り越え、今回は星を眺め、宇宙と一体になってる時間のほうが長かったんじゃと思うくらい、宇宙やUFOが頻繁に出てくる。
    人間が自然と一体化するインドで、瞑想の中で自らが自然と一体化する。
    でもそこにはとてつもない貧困があり、差別があり、直球で遠慮のない死の世界もある。

    この本自体と同じくらい印象深い三島由紀夫の著者への言葉「インドへは行ける者と行けないものがあり、さらにその時期は運命的なカルマが決定する」

    著者はインドそのものでなくインドが象徴するもの、例えば死が限りなく身近にあることなど、もっと言えばアメリカのフィルターを通したカルチャーとしてのインドに惹かれ、それを求めた。

    私も親のおかげで小さい頃からインド亜大陸の写真を見ていて、いつか行くときが来ると漠然には思っていたけれど、別にヒッピーではないし、人生を変えようとも悟りを開こうともヨガを極めようとも思ってはない。
    でもこういう本を読むのは面白い。70年代まっしぐら。
    日本人がインドに対して抱く憧れは、こういう正直な文学により磨かれ保護され、永遠に消えないとおもう。
    🔽 関連ページ 🔽

    English review “(To India)” Tadanori Yokoo (1977) Review | India as fantasy
    tag インド
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  • 『(私がなぜ人種についてもう白人にはなさないのか) 』 感想 | 人種差別と対話, 2019 >>

    『(私がなぜ人種についてもう白人にはなさないのか) 』 感想 | 人種差別と対話, 2019 >>

    🔽 基本情報 🔽
    Why I’m No Longer Talking to White People About Race
    Reni Eddo-Lodge, 2019
    (私がなぜ人種についてもう白人に話さないのか)
    2020.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    とてもパワフルな一冊。 
    まずはカバーがいい。彼女の怒りや苛立ちを思う存分に表現してる。
    そして中身、今の英国にとってとても重要な内容。
    英国の歴史の中での黒人やアジア人がどうか変わってきたのかという観点から始まり、英国にシステムがいかに差別的か、またその差別が正当化されているか。
    (正確には黒い人と茶色の人という言い方でいわゆる東洋人、黄色人種ではない)
    何が人種差別を生むのか。そこで人々が抱える恐怖とは。
    フェミニズムと人種、階級と人種、と続く。

    この本が、なぜ今、重要なのかは英国に住んでいれば分かる。
    つまりここ5年ほどで、人種差別は正当化されているから。(当時2020年)
    白人が人種差別主義者とレッテルを張られることは、黒人が人種差別を受ける事よりも酷いことという考えがまかり通る社会。
    そして今まで、英国に特化した人種差別を問う本や議論の場というのは数えるほどしかなく、ほとんどはアメリカから輸入されたものであったという事実。
    つまりそれだけタブーであるということ。

    フェミニストでもある著者は、フェミニズムの土俵で、人種のことに触れると突き放されるという。
    別の場所でやってくれ、と。
    まるでフェミニズムは比較的裕福な白人女性のためだけの場であるかのように。
    多くのメインストリームの場で女性の権利は支持されるのに、人種差別に反対することは、理論的なレベルで支持されても、日常レベルでは見て見ぬふりをされる。
    しかも「これは人種差別じゃないから」と開き直って。

    そして、何年も議論が絶えないEU離脱を後押しする白人労働者階級の人たちは、まるで移民や白人以外の人が国を去れば(英国生まれの有色人種やミックス人種を含め) 全ての問題が解決すると信じている。つまりそこでも肌の色が問題だとされる。

    実際に人種差別がなくならない理由はなにか。
    「何が」問題なのか。
    黒人やアジア人に問題があるのではない。
    それは明らかに白人主義に問題がある、もちろん。
    どうやって白人のセンチメンタリズムを傷つけずに、白人を優位な立場から引きずり降ろさずに議論するか。
    怖い黒人女性と決めつけられずに意見を主張する方法があるのか。
    そういった葛藤の中で、彼女は、もう白人に人種の話はしない、と宣言したわけです。
    もちろんこれは、さらに数年前のブログのタイトルで、そこから彼女はやっぱり言わなければいけない、ということでこの本を書いているわけですが
    沈黙は自分を守ってくれない。黙っていても自分の立場は良くならない。

    挑発的なこの本は、まさに多くのセンチメンタルな白人を追い詰めて、彼らを罪悪感に浸らせてしまった。
    どうしていいかわからないと頼ってくる白人たち。
    イベントのQ&Aでモノローグを始め勝手に泣き崩れる白人。
    でも彼女は言う。
    罪悪感を感じる余裕があれば、自分の行動範囲内で声に出してみればいい。
    例えば職場で発言してみる。
    組織的な差別の基盤はやっぱり人。
    一人ひとりが行動をし、一つのムーブメントとなる。

    日本にいればたしかにこの感覚は分かりづらい。
    大々的な奴隷貿易の歴史もないし、移民が我々の職を奪いに国境を超えて来ているという妄想的な危機感もないし、肌の色と社会的立場もしくは階級の明らかなカテゴリーもない。

    それでもこれはやっぱり重要な本である。
    英国人歌手のStormzyが言ったように、英国には例えばイタリアのようなあからさまな人種差別はないかもしれない。
    でも確実に存在していて、差別主義者は今まで陰口を言っていただけだけど、今日の英国で大声で言える権利を得たと勘違いしている。
    そしてそれはとっても恐ろしいことだ、と。

    この本が、いま、この若い英国人黒人女性によって書かれベストセラーになっていることは、その挑戦的な内容を例え読者全員が100%完全に支持できないとしても、とても重要なことであり、間違いなく英国各地で議論のきっかけになった。
    ちょっと希望が持てる気もしてくる。


    🔽 関連ページ 🔽
    English review “Why I’m No Longer Talking to White People About Race” Reni Eddo-Lodge (2019) Review | silence won’t protect us
    tag 植民地主義/Colonialism
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    Why I’m No Longer Talking to White People About Race: The #1 Sunday Times Bestseller
    
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    --
    
  • 『沈黙のパレード』 東野圭吾, 2018 感想 | 沈黙は究極の守り>>

    『沈黙のパレード』 東野圭吾, 2018 感想 | 沈黙は究極の守り>>

    🔽 基本情報 🔽
    沈黙のパレード
    東野圭吾, 2018
    496 ページ
    2020.01 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    ガリレオシリーズですから、やっぱり面白い。
    湯川、草薙コンビと内海さんその他の警察関係者と、町の人々というシリーズの人間関係の型にきれいにはまっていて、今回もトリックとちょっとドラマチックな展開、そしてぴったりすぎるタイトル。 

    相変わらず寝ずにあっという間に読める。
    今回のキーワードは「沈黙」。黙っていれば罪に問われないという究極の守り。
    あと、「世代の差」。世代によって感覚が違う。
    復讐のためにだけに生きる人、何年も苦しみを背負って生きる人、友のために全てを賭けて行動する人、さらっと諦める人、あと少し我慢して待ってあげられなかった人。
    わたしたち。
    (抽象的だけど、ネタバレ防止対策です)

    どこかに書いてたけど、どこから見ても著者がまた福山雅治に主演してほしいと猛アタックしてるしか思えないシーンがたっぷりだとか。
    映画もドラマもみたことないけれど、なるほど、そういう風に映画とも絡ませている感じが高度な遊びで嬉しくなる。

    徹底的なエンターテイメントミステリー。
    さすが、ガリレオシリーズ。

    🔽 関連ページ 🔽

    English review “Silent Parade” Keigo Higashino (2018) Review | Stay silent
    tag 東野圭吾
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  • 『科学者が人間であること』中村桂子, 2013 感想 | だって自分は自然の一部 >>

    『科学者が人間であること』中村桂子, 2013 感想 | だって自分は自然の一部 >>

    🔽 基本情報 🔽
    科学者が人間であること
    中村桂子, 2013
    256 ページ
    2025.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    一風変わったこのタイトルの重要さ。
    自分と自然に境目はない、だって自分は自然の一部でしかないのだから。
    科学者だけでなく、会社人でも特に政治家も、ぜひ読んで忘れないでほしい、あなたもわたしも、人間であることを。

    「日本文学の大地」を読んだときにに感じたことが、ここでは現代の科学者からの視点で書かれている。
    17世紀からの近代科学の発展、つまり自然を支配しようという思想のせいで、自然の一部だという人間の本来の感性があたかも古くさいもののように陰に追いやられた。
    でも今こそその感性を思い出す時。
    そう「思い出す」のであって新しいことではない、私たちが本来持っている感性と科学や技術の発展は敵対するものではない。

    元来の人間の生活を中心に置いたその向こうに見える未来は輝いている。
    それは金融資本とか人工知能とか金儲けのための開発とか、人間を置いてけぼりにした死んだ発展ではない。
    技術が進むにつれ知識が増える、でも次のステップ「どう普遍的な文明に繋げるか」にもたどり着くことを皆が意識する。

    彼女のことはお坊さんのポッドキャスト「テンプルモーニングラジオ」で知ったんだけど、DNAを引っ張り出して、血統だとか子孫だとか言うのは間違っていると強く仰っていて、それに惹かれてこの本を探したのでした。

    DNAは生物すべてが共有するものであり、単に親から子へまっすぐと降りてくるものという意識は間違っていると心に留めておくと、自分さえ良ければという考え方が薄れていくと思う。そして今こそ大事な考え方の転換。


    追記ですが、明治から特に海外に出た日本人の偉人が色々と言及されているので、特に南方熊楠は一度しっかり読みたい。

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    科学者が人間であること (岩波新書)


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  • 『あん』ドリアン助川, 2015 感想 | 暖かくてそっと甘い >>

    『あん』ドリアン助川, 2015 感想 | 暖かくてそっと甘い >>

    🔽 基本情報 🔽
    あん
    ドリアン助川, 2015
    260 ページ
    2025.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    暖かくて甘くてそっと抱きしめるような物語、とでもいうのか、じんわりとした幸せを感じる。
    でも幸せはいつもわかりやすいの形をしていない。

    社会の役に立つことが生きる意味だと言われることを最近よく考える。
    それは生きる意味じゃないとつくづく思う、どちらかというと意義だよね。
    生きる意味自体は「あぁ、よかった」って思えることじゃないかな、と最近は思う。

    徳江さんも、店長さんも、ワカナちゃんも、それぞれ辛い思いをしてきたなかでお互いに会えた。
    ハンセン病という病気に苦しみ完治後は偏見に苦しんだ徳江さん。
    私も療養施設が90年代まであったなんていうことも知らなかったけれど、差別をする側の無知の怖さ。

    偶然にも去年初めて自分であんこを作り、その後何度かどら焼きも作った。
    簡易レシピであったにも関わらず、もちろん乾燥小豆を前の日から水に浸し、数時間かかる。
    そして、自分で作ったちょっと固めになってしまったあんこの美味しさ。
    その時に感じたのは、間違いなく幸福感だった。
    お菓子が運んできてくれる小さな幸せ。
    時間をかけた割には一瞬で食べてしまう美味しいもの。
    そんなときにも「あぁ、よかった」と思うようだ。

    暖かくて甘くてそっと抱きしめるような物語、とでもいうのか、じんわりとした幸せを感じる。


    🔽 関連ページ 🔽

    English review “Sweet Bean Paste” Durien Sukegawa (2015) Review | sweetness of life


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    あん (ポプラ文庫 と 1-2)



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  • 『パチンコ』 ミン・ジン・リー, 2017 感想 | 韓国から日本へ>>

    『パチンコ』 ミン・ジン・リー, 2017 感想 | 韓国から日本へ>>

    🔽 基本情報 🔽
    Pachinko
    Min Jin Lee, 2017
    パチンコ
    ミン・ジン・リー
    512 ページ
    2021.10 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    韓国に生まれ日本に渡った一人の女性、彼女の人生で耐えることなく続く苦労と小さな幸せ。

    一人の女性の焦点を当てることで、より戦時中のリアルな苦しみが浮かび上がり、かえって普遍的なストーリーとなっていく。
    日本と韓国の歴史、もしくは日本人と韓国人の歴史といったほうが正しいのか、その関係は簡単には概要を掴めない、というのも今日もまだ続き変わり続けているから。
    戦争は間違いなく関係悪化の要素の一つだけれどそれだけでもない。

    この本はいかに一瞬の不運やタイミングの違いでその後の人生が大きく揺らされるかを豊かな表現で描く。
    アジア人でないと分かりにくいところはあると思うけれど、アメリカ出版で世界中でベストセラー(むしろ日本の反応が遅くて鈍かった)

    韓国はドラマもそうだけどストーリーテリングが上手。
    ドラマチックな流れで、でも実際に戦時中や戦後はこんなスピードで人生は流れていったんだろう。

    フェデリコ•フェリーニは、人生は祭りだというけれど、この本は、「いや、人生はパチンコだ」といっている。
    フェアじゃない。負けると決まっている勝負。それでも続けてしまう。

    AppleTVのシリーズも観てみたい。



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    English review “Pachinko” Min Jin Lee (2017) Review | Korean-Japanese epic
    tag 日本史
    tag 植民地主義
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  • 『岳物語』椎名誠, 1989 感想 | 息子と父の物語>>

    『岳物語』椎名誠, 1989 感想 | 息子と父の物語>>

    🔽 基本情報 🔽
    岳物語
    椎名誠, 1989
    Gaku Stories
    Makoto Shiina
    272 ページ
    2025.11 読了

    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    小説というか、ほぼエッセイというのか。
    でも小説ということらしい。
    父親の愛情に溢れた一冊で、しかも思春期の難しい時期に入るまでの息子と父の物語。

    自分に息子がいるとよくわかる。
    こうでした。
    私は母親だしプロセス技もかけないけれど、長男はは家庭内だけでなく社会で育つべきと思っていたし、家族でない人との交流をさせてもらえることがありがたくてしょうがない。
    13歳のときに長い夏休みに日本の私の実家に3ヶ月送り込んだときと、作中におとう(椎名誠)が3ヶ月半の海外での仕事から帰宅した時とが重なる。
    少年として送り出したのに帰ってきたときは青年になっていた。
    単純に身長も抜かれたし、何よりも親がいない、知らない時間を経験をした、ということ。
    普段は学校は片道バスで2時間の街にあるから部活もスポーツも何もしないのに家ではご飯食べて寝るだけ、いよいよ息子との接点もなくなる。
    子供が自分を越えていく、それが子育ての成功した証だと思う。

    岳さんは椎名誠よりシーナ的とも言われてこの本のイメージが強すぎてそれが迷惑な時期もあったそうだけど、家族ってそれぞれで、そんなものなんですね。
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  • 『(ダージリン; インドのフェアトレード茶畑における労働と正義)』サラ・ベスキー,2014 感想 | ダージリンの現実>>

    『(ダージリン; インドのフェアトレード茶畑における労働と正義)』サラ・ベスキー,2014 感想 | ダージリンの現実>>

    🔽 基本情報 🔽
    The Darjeeling Distinction: Labor and Justice on Fair-Trade Tea Plantations in India (California Studies in Food and Culture Book 47)
    Sarah Besky, 2014
    (ダージリン ディスティンクション; インドのフェアトレード茶畑における労働と正義)
    サラ・ベスキー
    258 ページ
    2022.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    まさに探していたトピックの本。
    ダージリンのお茶と産業と労働者の関係。

    ダージリンは世界で一番高級な茶であり、世界中で知られていてステータスもある、なのになぜダージリンの労働者は貧しいのか。
    ダージリンのお茶一杯の値段はお茶を摘む仕事の女性の一日の給料より圧倒的に高い。
    高級感を売り物にするダージリンの現実は静かに隠されている。

    ダージリンやシッキム州のいわゆる広い意味でダージリン茶を作るエリアは実は最近まではインドではなかったし、18世紀に英国人が周辺の発達のためにネパールから大量の労働者を連れてきたので、人種的にもほとんどがインド人ではない。
    90年代に盛んだったグルカ運動はいまも消えたわけではないけれど、これだけ商品価値のある商品を作るダージリン、インドは、西ベンガル州は何があっても手放さない。
    グルカもネパール系の人々は何代もの間この産業を支えているのに実質的に何も所有できない、他の道も少ない、自分たちの歴史さえ曖昧になっている。
    フェアトレードの観点から言うと、フェアトレードを押し付けられるせいで現地の人間の生活はより厳しくなったとも。

    高級茶の代名詞のダージリンは現地の人々からの搾取によって支えられている。

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    English review “The Darjeeling Distinction” Sarah Besky (2014) Review | Dark side of the posh tea
    tag 東ヒマラヤ

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    The Darjeeling Distinction: Labor and Justice on Fair-Trade Tea Plantations in India


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  • 『女が死ぬ』 松田青子, 2021 感想 | 屈しない女性像 >>

    『女が死ぬ』 松田青子, 2021 感想 | 屈しない女性像 >>

    🔽 基本情報 🔽
    女が死ぬ
    松田青子, 2021
    224 ページ
    2025.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    おお、なんかすごいのを読んでしまった。
    はじめての松田青子、噂からもタイトルからも女が強そうでしたが、ただそうじゃない、怒りに溢れている。
    でも爆発する怒りじゃなく、沸々とする怒り。
    「あなたの好きな少女が嫌い」「男性ならではの感性」のように性懲りもなく突きつけてくる男性中心視線の社会に怒り、「女が死ぬ」をまたは「ミソジニー解体ショー」をしちゃいそうな怒り。
    日本ぐらいですよ、「女性ならでは」とか公で言うの。
    広告や雑誌で普通に「女性ならではの感性」なんて恐ろしい言い方して男も女も納得してるの。

    屈しない。
    周りが何を言おうが、現代のティンカーベルのように自分の好きな方に飛んでいく。
    好き勝手にトイレに吐き出す。
    ステキ。
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    English review “BUTTER” Asako Yuzuki (2017) Review | Her life her food her body
    tag フェミニズム/Feminism
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  • 『インド ミニアチュール幻想』 山田和, 2009 感想 | 宇宙と神々と人の営みが詰まっている >>

    『インド ミニアチュール幻想』 山田和, 2009 感想 | 宇宙と神々と人の営みが詰まっている >>

    🔽 基本情報 🔽
    インド ミニアチュール幻想
    山田和, 2009
    511 ページ
    2025.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    細密画のなかには宇宙と神々と共同体としての人の営みが詰まっている。
    そしてこの本はそれを我々に伝えようとする。

    細密画を通じてインドを旅行するような本。
    ただここでは、街から街へという移動ではなく、インドという空間と歴史を移動する感じ。
    16世紀から18世紀に渡り栄えたインドの細密画文化はラジャスタンを中心としたヒンドゥー教色の濃いラジプート派と、ムガール帝国時代の華やかな文化を象徴した、ムガール細密画と大きき二つあるよう。

    そして有名なのは筆。
    私が聞いたのはリスを毛を、一匹からは毛一本しか抜かない、というものだったけれど、ここではバサッとハサミで切るそう。
    それでも、一匹からは筆一本しかつくらない。
    もちろんそのリスには危害を加えないように細心の注意を払いつつ。

    そういう全体的なミニアチュールに関する章もあるし、画家個人を追った章、または蒐集家を追った章もある。
    細密画コレクターの友人でありライバルと、骨董屋から安く買い取るやり取りの様子も、蒐集に取り憑かれて犯罪や詐欺にに手を染める男たちもと、とにかく幅広い内容でどんどんよ読み進めてしまう面白さ。
    そして最後の方にはインド思想という壮大な時空の中にある細密画の位置付けと意義とでもいうのか、細密画に見る美の存在自体を追求する。
    最後に参考文献がたくさん並んでいるので、できる限り揃えたい。

    芸術であり宗教的であり、作者一人の人生を越えたもの。
    だから描いた人のサインはされない。
    画家はもちろん画家のカーストに生まれたから、父から祖母から受け継いだ精神で自らの人生全てで細密画に向かう。

    個人という枠を軽々と越え、時間と空間の壁を越え、宇宙と神と一体になるという感覚。
    音や絵を通じてしか伝えられない古代から続く感覚。
    この前読んだのNine Livesに通じるものもあるけれど、同じようにその感覚が近代化のなかでなくなりつつあるという危機感も持ってしまう。
    日本だって音楽や芸術を通じて自然と繋がる感覚がなくなっているように。

    やっぱりラジャスタンいかなきゃなー。
    最近どのインドの本みても、ラジャスタン州が出てくる。
    超観光地だから前回ためらったけど、毎日移動に車で8、9時間という現実を受け入れればまだ近代化してないインドに会えるんだろうなー


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  • 『BUTTER』柚木麻子, 2017 感想 | 自分のために幸せになる>>

    『BUTTER』柚木麻子, 2017 感想 | 自分のために幸せになる>>

    🔽 基本情報 🔽
    BUTTER
    柚木麻子, 2017
    Butter
    Asako Yuzuki
    592 ページ
    2025.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    とうとう読んだ Butter
    元ネタの殺人事件を知らなかったのだけど、知ってたら比較したりともっとミーハーな気持ちを強く楽しめたかも。

    このストーリーの魅力はやっぱり容疑者カジマナの強いパワー。マーガリンとフェミニストが嫌いなカジマナ。
    それに完全に振り回される主人公である女性記者理香との微妙な力関係。
    いや、力でいうとカジマナが完全に勝っている。
    主人公の親友との関係も、恋人との時間の過ごし方もそのあとにどこで何を食べるかも、人間関係全てにおいてカジマナの白い柔らかい腕から伸びるぷっくりとした手が鷲掴みにした。

    この本、世界中でもちろん人気だけど、女性の体重に関する社会のデリカシーのなさと、見た目を気にするようにプログラミングされた日本人女性に一番響くのは間違いない。
    自分のために幸せになり、好きなものを食べることが咎められる日本。
    脂っこいものをたまに食べ結果多少体重が増えても、自分にとっての適度な楽しい人生を手にするのが、特に女性が手にするのは、悪いことである日本。

    自分のために幸せになるのは実はかなり気合いがいる。
    人の意見を振り払い、色んなものを破棄しないとたどり着かない。
    その先には自分が美味しいと思うものを美味しく食べる、高価なバターのような贅沢な濃厚な時間がある。

    単なるフェミニストな小説なんかではない。
    女性の容姿に関わる世間の身勝手な期待という呪縛からの解放、そこは大前提であるがそれに伴い男性だって男らしくあれという呪縛からも解放される。
    ミステリーでありながら、社会問題の本質のところを突き止める。

    🔽 関連ページ 🔽

    English review “BUTTER” Asako Yuzuki (2017) Review | Her life her food her body
    tag 女性主体
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  • 『9つの人生』ウィリアム・ダルリンプル, 2013 感想 | もう人間ではない聖なるもの / >>

    『9つの人生』ウィリアム・ダルリンプル, 2013 感想 | もう人間ではない聖なるもの / >>

    🔽 基本情報 🔽
    Nine Lives: In Search of the Sacred in Modern India
    William Dalrymple, 2013
    9つの人生 現代インドの聖なるものを求めて
    ウィリアム・ダルリンプル
    305 ページ
    2025.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    今まで読んだダルリンプル氏の他の本とはちょっと違った感じ。
    形としては旅行記なんだけど、旅先の土地の様子ではなく、その土地が「創り上げた」人々の話。

    9つの聖なる人生、9人の人間のストーリー。
    彼らは人間ではあるけれど、「聖なるもの」として崇められすでに人間ではない生活を送っている。
    例えば自己を捨て聖人としてただ流れに任せて生きている人や、女神に仕える女性として生きているけれどでもやっていることは売春婦でしかないひと、または宗教的な踊りや歌を受け継ぐ人、本当にそれぞれの宿命を背負って生きている。

    私がダルリンプルの書く文章が大好きな理由はもちろん、彼のすべてをありのままに受け止め、深い情熱と愛を持って世界に届けようとする徹底したその姿勢。
    いまインドの社会は大きく変化している。
    それは日本のように人々が宗教から離れていくという減少ではなく、その土地その町の超ローカルな信仰が薄れていき、代わりに、意図的に、インド全国規模の統一されたヒンドゥー教が彼らの生活に入り込んできているということ。
    何百年も語り継がれてきた地元の信仰とは違う、インド全土で統一されたラーマの物語が全国放送のテレビを通じて短期間で人々の脳内の記憶を塗り直すナショナリステックなラーマフィケーション(Rama-fication、ラマ化)が進む中、あと何十年、あと何年でローカルな信仰や伝統は忘れ去られるのか。

    その最後をきちんと書き残してくれる歴史家がいるって素晴らしい、の一言に尽きる。
    🔽 関連ページ 🔽

    English review “Nine Lives” William Dalrymple (2013) Review | Being holy in India today
    tag インド
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  • 『(ダージリン 世界最高の茶)』Jeff Koehler, 2015 感想 | 植民地主義と高級茶>>

    『(ダージリン 世界最高の茶)』Jeff Koehler, 2015 感想 | 植民地主義と高級茶>>

    🔽 基本情報 🔽
    Darjeeling: A History of the World’s Greatest Tea
    Jeff Koehler, 2015
    (ダージリン 世界最高の茶)
    286 ページ
    2022.04 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    ダージリン茶に関するすべての背景、なぜダージリンに茶が植えられたか、どういった植民地的な歴史を抱えているのかなどをかなり掘り下げた一冊。
    英国人が始めインド人経営者が受け継いだ茶園、そこに住み働く代々慎ましい生活をする人々の様子など人にまつわることも。

    多くの人にとってダージリンのお茶の風味はユニークな優雅さだったり高級感を象徴するけれど、ダージリンの抱える問題は別のユニークさがある。
    世界有数の高級な飲み物でありながら、つくり手の問題や生活環境は厳しく、いまだに植民地的な搾取によって生産されている。
    お茶を摘む作業を担う人間の一日の給料は、一杯のダージリンの値段以下。

    同じく世界有数の飲み物であるシャンパーニュやウィスキー、抹茶などと違い現地の国民、インド人は口にしないダージリンティー。
    数え切れない問題を抱えるダージリン茶産業、今後も人々はダージリンを飲み続けるのか、そして作り続けることはできるのか。

    🔽 関連ページ 🔽

    English review “Darjeeling: A History of the World’s Greatest Tea” Jeff Koehler (2015) Review | Colonial history and Darjeeling
    tag
    tag 東ヒマラヤ
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    Darjeeling: The Colorful History and Precarious Fate of the World's Greatest Tea


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  • 『マスカレード•ゲーム』 東野圭吾, 2022 感想 | ファンのためのエンターテイメント

    『マスカレード•ゲーム』 東野圭吾, 2022 感想 | ファンのためのエンターテイメント

    🔽 基本情報 🔽
    マスカレード•ゲーム
    東野圭吾, 2022
    Keigo Higashino
    416 ページ
    2025.05 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    期待を裏切らない、極上のエンターテイメント。
    シリーズ最新作(5月当時)でしかもいつもの顔ぶれも皆さん久しぶりにホテルに集まるということで同窓会っぽい雰囲気もあり楽しい。
    新しい相棒の若い女性刑事も嫌なやつな雰囲気がいい。

    ストーリーの方もしっかりしていて人間ドラマがちゃんとあり、さすが東野圭吾はファンを分かってくれていて、期待の上を回るものを提供してくれる。
    さすがです。


    🔽 関連ページ 🔽
    タグ: 東野圭吾
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  • 『老師と少年』 南直哉, 2006年 感想 | 自分とは何か

    『老師と少年』 南直哉, 2006年 感想 | 自分とは何か

    🔽 基本情報 🔽
    老師と少年
    南直哉, 2006
    Jikisai Minami
    120 ページ
    2025.10 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    永平寺で20年修行した曹洞宗のお坊さん、というか、老師。
    テンプルモーニングのポッドキャストで知ったあと、そのお人柄にビックリしていくつか本を入手した中のひとつ。

    自分とは何か、生とは死とはなにか、と少年が老師に色々と聞く、というお話なんだけど、老師は答えをくれるわけではない。
    でもそれが答えなのである。

    こんなに短くて文章も易しいのに、読者の心の、頭の深いところに直接、優しく語りかけてくる。
    気付いていないだけで君は一人じゃない、というところもいい。
    これは何度も開く本になりそう。


    中でも好きだった箇所を二つ。

    「では、『本当の自分』をさがす人はただ愚かなだけですか?」
    「そうだ。しかし、愚かさでしか開けない道もある」

    「『本当の何か』は、見つかったとたんに『嘘』になる。」
    🔽 関連ページ 🔽
    タグ: 仏教
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  • 『罪と罰』フョードル・ドストエフスキー, 1866年 感想 | プライドまみれの青春

    『罪と罰』フョードル・ドストエフスキー, 1866年 感想 | プライドまみれの青春

    🔽 基本情報 🔽
    Crime and Punishment
    Fyodor Dostoyevsky, 1866
    Преступление и наказание
    Фёдор Миха́йлович Достое́вский
    罪と罰
    フョードル・ドストエフスキー
    720 ページ
    2023.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    つい最近「カラマーゾフの兄弟」を読み終わって、なんというかカラマーゾフが幽霊のように追いかけてくるんです。この物語よりも素晴らしいものはない、と呟きながら。
    なので、潔く「罪と罰」。

    カラマーゾフと比べて短いし、比較的ストーリーを追いやすい。
    単純に主人公一人だからという理由で。
    でもストーリー、出来事を追いやすいというだけで、決して読みやすい訳ではない。
    その辺に関しては私がグダグダ感想を述べても仕方ない、この本も「偉大な一冊」であることは誰もが知っているから。

    青年ラスコーリニコフは問題児だ。
    でも彼が本の中で問題を起こすから、自分の行動を正当化するからじゃない。
    彼は私達読者に、特に若者に、社会に対して自分勝手な問題を起こしてもいいんだよ、と囁いているからだ。
    この本が若者に与えた影響は簡単に想像できる。
    どの時代もどの国でも、自分は特別なのに不当に扱われているという(もしくは扱われているという妄想であっても)憎しみと怒りは普遍的。

    若いことは美しくはない。若いことは痛みでしかない。
    その上、すこし頭が良くて、自信はないのにプライドにまみれた青春は耐えられない。
    彼のその無知、無垢、妄想の前にはばかるもの、それは生きるということ、人生。

    🔽 関連ページ 🔽
    English review
    “Crime and Punishment” Fyodor Dostoyevsky (1866) Review | Intolerable pride
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    罪と罰 上 (角川文庫)


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  • 『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー, 1818年 感想 | 痛々しくも美しい

    『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー, 1818年 感想 | 痛々しくも美しい

    🔽 基本情報 🔽
    Frankenstein
    Mary Shelley, 1818
    Frankenstein: Or the Modern Prometheus
    フランケンシュタイン
    メアリー シェリー
    224 ページ
    2020.12 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    世界で最も有名なホラーのひとつ。
    でも特記すべきは、この物語は当時18歳だった若きメアリー・シェリーが書いたということ。
    しかも、旅行中に天気が悪いからと、同行した二人の男性と「誰が一番怖い話を書くか賭けをしよう」と言うことで書き始めた話は有名。その二人とは詩人バイロンと作家ポリドリ、かなり豪華な遊び。

    さて、物語は原作を知らないとどうしても恐ろしいモンスターの話、と単純に思ってしまうけれど、読んでびっくり、詩的で悲しい、そして痛々しくも美しい物語と私は言い切ってしまいたい。
    この怪物の存在を後悔する二人の男の物語。
    一人は怪物を作った男、もうひとりは怪物本人。
    怪物が怪物的で暴力的なものは仕方がない、彼の意思ではなく自然の原理でしかない。

    どうしても映画や漫画などで単純なイメージが独り歩きしているけれど、原作では単純な悪ではない。
    どちらかというと、望まれない存在である一人ぼっちの怪物の悲しいお話。


    🔽 関連ページ 🔽
    English review “Frankenstein” Mary Shelley (1818) Review | A lonely unwanted creature

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    フランケンシュタイン (新潮文庫)


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  • 『日本の精神』ラビンドラナート・タゴール, 1916年 感想 | 軍事国家へ走る日本への警告

    『日本の精神』ラビンドラナート・タゴール, 1916年 感想 | 軍事国家へ走る日本への警告

    🔽 基本情報 🔽
    The Spirit of Japan
    Rabindranath Tagore, 1916
    日本の精神
    ラビンドラナート・タゴール, 1916
    ロビンドロナト・タゴール
    22 ページ
    2023.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    タゴールが日本滞在の最後に、1916年に慶應義塾大学で行った講演。
    何度も訪日し、日本の文化や芸術また日常の中にある芸術を愛したインドの詩聖タゴール。
    しかしこの講演は急激に西洋化しナショナリズムへ走り軍事国家へと変化し始めた日本に対する厳しい批判と警告に溢れていた。

    彼の祖国を支配していた大英帝国の醜さを目の当たりにしているタゴールは、誇り高き文化を誇る日本が西洋の猿真似をしている、と強く批判。
    しかし彼の批判、警告は普遍的なものでもある。
    近代化という道は自己を破滅させる、憎しみを他者に押し付けても必ず自分に戻って来る。
    アジア初のノーベル賞を受賞した彼は東洋の力を信じていた。
    東洋の力とは、西洋のような技術的なモノを使う力ではなく、東洋哲学という力、和を愛する力。
    曇りの日でも太陽はずっとそこにあるように、東洋の力は強く輝き続けると。

    日本語では見つけれれなかったけど100年以上前のものだしネットではどこかで読めるかも?
    英語でも難しくはないです。
    短い文章ではあるけれど非常に率直で意味のある一冊。

    (講演だけどエッセイのカテゴリーに)


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  • 『カラマーゾフの兄弟』フョードル・ドストエフスキー, 1880年 感想 | 最高傑作

    『カラマーゾフの兄弟』フョードル・ドストエフスキー, 1880年 感想 | 最高傑作

    🔽 基本情報 🔽
    The Karamazov Brothers
    Fyodor Dostoevsky, 1880
    ратья Карамазовы
    Фёдор Достоевский
    カラマーゾフの兄弟
    フョードル・ドストエフスキー
    896 ページ
    2023.11 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    世界最高峰の小説、最高傑作。
    たしかに長編だし、最初の方は宗教的でゆっくり始まる、でも段々といろいろな事柄が絡み合い、謎を生み出し、謎が解かれていき、と次に今度は何が起こるかをドキドキしながらページをめくってしまう自分がいる。
    だからドストエフスキーは素晴らしい語り手、ストーリーテラーなんですね。

    世界中の人が読み、再読し、研究されているので私がわざわざ意見を書くまでもないんですが、単刀直入にいうと、物凄いものに出会ってしまった、ということ。
    読み直して、他に読んだ人とも感想を交換して、その上で浮かび上がる自分の意見を書き出して、となんだかこれからの一生についてきそうな本。
    続編があるはずだったから未完だということもあるだろうけど、未完なのに完全。

    ミステリーであり、恋愛小説であり、宗教についても、家族についても、貧困についても、一つ一つのテーマは誰もが分かるシンプルなものでありながら、とにかく広く深い、そんな壮大な小説。
    というか正にそこで、今後色んな本を読んでここまで衝撃を受けるものはあるか不安にすらなる。

    素晴らしい、傑作、ここまで来ると人類の宝でもあり、本という媒体でなければ博物館に飾られるレベル。
    全体的にずっと暗いし重たいのに、実は未来に向かっているという点も素晴らしいとしか言いようがない。

    読むだけでも一つの到達点でもあるんですよ、長いしややこしいし。
    でも読んでみる、その行動だけにもすでに価値がある。
    その上で読み直してもっと分かればより良い読書体験になると思う。ので少し時間を置いて再読必須。


    ちなみに相関図はあったほうがいい。
    ロシア文学はころころと呼び名を変える上に登場人物が多い。
    で、日本語で読んでないけれど、出版社によってページ数がぜんぜん違うみたい。
    下にリンクを張っている光文社は全5巻で約2500ページ、新潮文庫は上下あわせて1400ページ。
    どれが良いとなると個人の好みもあるけれど、光文社が読みやすいそう。
    1000ページの差が気になるけれど、しっかりと理解しながら読めたほうが良いと思うので、いつか光文社の日本語版も読むことにする。

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  • 『正欲』 朝井リョウ, 2021年 感想 | ズシンと後味も悪い

    『正欲』 朝井リョウ, 2021年 感想 | ズシンと後味も悪い

    🔽 基本情報 🔽
    正欲
    朝井リョウ, 2021
    528 ページ
    2025.10 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    確かにズシンと重みがあって、後味も悪い一冊。
    なぜかと考えると。
    やっぱり最大の理由はこの本にずばりと「あんたもそうなんでしょ」と言われているからだ。
    「あんたも気持ち悪いと思ってるでしょ」
    「あんたも都合のいい多様性だけには寛容なんでしょ」
    「あんたも本当は人に言えないことあるでしょ」

    多様性、言うは易し。
    外国で暮らすと当然のことながら自分の価値観はマイノリティになる。
    (価値観どころか自分の存在自体がマイノリティになるし、酷ければ虐げられるけど)
    でも実は国境を越えなくても、じゃあ同じ町で生まれた人はみな同じ感覚か、教室ではみな分かち合えるのか、きょうだい間では。
    そうつまり、理解してもらうことは超レア。
    でも学校では日本は特に正しい答えを復唱することだけを教えられてきて、表面だけではみんな正常で安心して同じ製品として大きくなっていく。
    人は自分と違うという意識がないので想像力が培われない。
    ただし、根本的な欲望が人と違う人間の場合は別。
    人と違う不良品と思い込んで生きていくしかない状況に陥りやすくなる。

    結局人間の喜びは繋がること、理解してもらえること。
    主人公たちが実際に出会えた幸せというのは、本当は図りきれない奇跡。

    人それぞれに興奮する対象が違うというのは当たり前で、人に言えないことがあるのも、程度や頻度は違ってももうここで人生終わりたいと思うことも当たり前。
    人生で知らないことばかりなのも、ほとんどの場面で自分が間違っているのも当たり前。
    つまりみんな正解のない中で生きているんだな、と分かれば自分も他人も楽になるのでは。

    多様性は大事。
    多様性のない社会は滅びます。
    たぶんずっと正しい答えは見つからず、しかも現在正しいとされていても時代が変われば正義も変わるし、永久に議論は続くと思う。
    でも議論ができるというのは違う意見が立場が存在するからで、社会はすこーしずつ良くなる。
    つまり、たまには大声を出しあってでも議論が永久に続くことが少なくとも私たちができる最良な選択でもあるのでは。

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    English review
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  • 『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ, 1979年 | 本好きの天国と地獄

    『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ, 1979年 | 本好きの天国と地獄

    🔽 基本情報 🔽
    If on a Winter's Night a Traveller
    Italo Calvino, 1979
    Se una notte d'inverno un viaggiatore
    冬の夜ひとりの旅人が
    イタロ・カルヴィーノ
    272 ページ
    2025.10 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽

    なんて本なんだろう。
    これは他にない読書体験、試験的読書体験。
    読者、作者、翻訳者、出版社、翻訳者、政府も本の中の人物も全部ひっくるめて、時空も日常も現実もすべてを超越して地獄と天国がこの一冊に詰まっている。

    主人公である「あなた」が本を読み始めるけれど、途中から印刷が乱れる乱丁本だったようで、仕方なく本屋に戻る。
    新しい本もどうも違う本らしい、しかもこっちも乱丁本、そしてそれが何度も続き。
    毎回、やっと背景や人物像を把握し面白くなってきたところで読めなくなる、なんとしてでも続きが読みたい、そこから「あなた」の異様な冒険が始まる。

    余談だけど「夜は短し歩けよ乙女」って絶対これに影響受けてるよね。
    読書という側面じゃなくて、どこにいっても結局ある女性にたどり着くという側面で。

    これは一体何なのか。
    どうやってこれらの物語は終わるのか、終わりとはなにか。
    読書という地味な日常の体験。一人なはずの体験。
    この本はそこにいろんな疑問をガンガンぶつけてくる。
    そして答えは?
    本を通じて時空を超えて繋がってくる人々、登場人物、作者、その他諸々と実際に読んでいる「あなた」、最後にはなんとなくニヤニヤしてきます。
    なるほど、これこそが文学の魔術師、イタロ・カルヴィーノ。

    🔽 関連ページ 🔽
    English review "If on a Winter's Night a Traveller" Italo Calvino (1979) Review | Paradise and hell for readers
    タグ: イタリア
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  • 『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル 1933年 感想 | 彼の小説のベース

    『パリ・ロンドン放浪記』ジョージ・オーウェル 1933年 感想 | 彼の小説のベース

    🔽 基本情報 🔽
    Down and Out in Paris and London
    George Orwell, 1933
    パリ・ロンドン放浪記
    ジョージ・オーウェル
    224 pages
    2023.06 読了
    🔽🔽 読書記録 🔽🔽
    インド帝国ビルマでの勤務を終え、ジョージ・オーウェルはパリとロンドンで自ら進んで窮困生活を送った。
    その時の様子を、貧困と隣り合わせに過ごした様子を彼らしい文章で描く傑作。

    日本語のタイトルの「放浪記」はちょっと雰囲気が違うかも。
    Down and Out、パリとロンドンの下と外での、いわゆる街の華やかな雰囲気ではない陰での生活の記録という原題を意識して読むと良いと思う。

    ロンドンやパリのレストランの多くは地下に炊事場があり、特に皿洗いは営業時間の前後もずっと外の光や空気に当たることなく一日が過ぎていく、そういう生活のこと。
    頭上にいるレストランで食事ができる層の人間が汚したものを洗い続ける毎日。
    しかしいくら働いても生活は良くならないから地下から抜け出せない。
    そういう生活を経験し、彼の毎日の様子や、当時の思考などを細かく書いている。

    彼が後に書く有名な小説のベースは間違いなくここでの貧困生活。
    誰のせいで貧困から抜け出せないのか。
    それは皿洗いを一生続けなければいけない人のせいではなく、一生続けても良くならないシステムを造り上げた社会のせい、社会としての破綻のせい。
    貧困であってもしっかりした意思があればその人は威厳を持って生きていける、というのは唯一の希望の欠片のよう。
    (ただし、オーウェルは貧しい家庭出身ではなく、自分で選んで数年だけ貧困生活を送った、ということも忘れてはいけないけれど)

    🔽 関連ページ 🔽 
    “Down and Out in Paris and London” George Orwell (1933) Review | Foundation of his novels
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    パリ・ロンドン放浪記 (岩波文庫)


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